読書会の記録

『子の立場』川端康成

(川端康成「掌の小説」新潮文庫より)

  • 開催日:2023年11月26日(日)
  • 会場:府中市「市民協働まつり」会場内ブース
  • 参加者:7名
  • 概要:たった500字の掌編小説です。読む時間として15分を予定していましたが早々に切り上げ、疑問に思ったことや感想を自由に語り合いました。

【あらすじ】
家に訪ねてきた多津子という若い娘が息子の恋人であることを知っているのかいないのか、強いられた結婚について相談された母親は、「自分も道を誤って一生を滅茶苦茶にしたのだから」と恋愛結婚を勧める。娘はてっきり二人の結婚を認めてくれたものと思い込み、喜んで帰って行く。立ち聞きしていた息子は「強いられた結婚をしなさい」と婚約破棄の手紙を書く。だが「そして私のような立派な子供を生みなさい」とはさすがに書けなかった。

【読書会で出た感想(後から送られた感想も含みます)】

わからない、何これ!
👦母親と多津子は未来の嫁姑になる間柄なのに、あまり緊張感がなく、「おばさん」などと呼んでいる。どういう関係なのか。わりと親しい間柄か。日頃から一郎は多津子の下心を感じていたのかも。彼は結婚という制度そのものに嫌気がさしている?
👧多津子は「親に結婚を強いられているのだけれど実は約束した人がいる」と相談を持ちかける。同情を買おうとして嘘を言っているんじゃない?
👨‍🦱「実際彼の母はさとりが悪い」とあるが、本当に鈍感な女なのか。作者は、本当のところ彼の母はさとりがよいのだとほのめかしているのではないかしら。だとすると、二人の結婚を妨害しようとしている? 
👨‍🦳一郎はなぜ、二人の女の会話を立聞きしたのか。いつから立聞きしていたのか。たまたま帰宅したのか、それとも初めから家にいたのか。愛情が薄れている? それとも母親の思惑を探ろうとしている?
👩‍🦳一郎はなぜ、婚約破棄の手紙を書いたのかしら。なぜ、多津子に「強いられた結婚をしなさい」と書いたのか。
👧一郎はなぜ、手紙に「私のような立派な子供を生みなさい」と書けなかったのか。親の勧めた結婚をしたから自分のような立派な子が生まれたと思っている、思っていない、どっち? 
👦子の立場の、子とは一郎を指すのか。それとも、恋愛結婚(または親の決めた)結婚によって生まれた「子供」を指すのか。
👨作者は何が言いたかったのか。結婚なんて地獄だぜ…とか?

  • 結婚の約束を双方の親は知らない?
    👧母親は多津子に「恋愛結婚をなさいましよ」と言うし、多鶴子の親も娘に見合いを勧めている。単に、親たちは二人が結婚の約束をしていることを知らないのだ。
  • 一郎と母親はグルである
    👩一郎は多鶴子に飽き飽きしている。母親もそれを知っている。息子は多鶴子が押しかけてきたら、母親がうまく別れさせてくれると期待している。それで立ち聞きしていた。
    👩‍🦱一郎は優柔不断なマザコン男。多鶴子は業を煮やして母親に直談判しに来た。母親はそもそも二人の結婚に反対。一郎は母親の意向に従おうと思っている。
  • 母親の不幸を初めて知った息子の立場
    👧一郎は、「自分みたいな立派に成長した息子を持ってお母さんは幸せだ」と思っている。なのに不幸だったなどというのは欲張り。ありもしない幸福の幻想を持ったまの生きてきたのか、お母さんは。
    👦母親が道を誤ったばっかしに30年不幸だったというのを立ち聞きした一郎はショックを受けたと思う。不幸な結婚で生まれた自分は、母親にとって、どういう存在だったのかと悩むだろう。強いられた結婚をして立派な子供が生まれるとは、さすがに「書けなかった」のだ。
  • 婚約破棄の理由とは
    👩‍🦱婚約破棄の手紙は母親の差し金。あるいは母親の意向を察して一郎が書いた。だから、さすがに自分のことを立派と言うのは、気が引けた。
    👧「強いられた結婚でなく恋愛結婚をすれば理想的な幸福を得られると多鶴子は思っているのかい? そんな夢に惑わされている女性との結婚は僕には重すぎるよ」が一郎の気持ち。
    👩実は、一郎には隠し子がいる。だから、婚約破棄に至るよう、母親に頼んだのに、母親がバカだから、多鶴子が図に乗ってしまったので、あわてて破棄の手紙を書いた。
    👨‍🦳人は立場立場で物を考え、ものを言う。強いられた結婚の結果生まれた息子は自分を否定できないから、多鶴子に別れの手紙を書いた。
    👦「婚約破棄の手紙を書いた」と言っているが、投函したとは書かれていない。結局投函しなかったので、二人はめでたく結ばれるという展開もありうる。
  • 作者は何を言いたかったのか
    👦自由恋愛の結婚と親の決めた結婚と、どっちが幸せかというのがテーマ(執筆当時の社会背景から考えて)である。
    👨‍🦳人間は恋人であれ親子であれ、その間には超えがたい壁があり、みな孤絶しているということ。
    👩作者は意図的に情報を減らして読者に違和感や不安感を生じさせている。ミステリー仕立ての小説を書きたかった。